ヒット商品やサービスを手掛ける企業のキーマンにお話しを伺う企画「#お仕事図鑑」。

今回は、塩野義製薬で働く社会人にインタビュー。3人の社員さんに、新型コロナウイルスの治療薬の開発秘話や、会社の特徴を伺いました。

PROFILE

加藤 輝久(左)

創薬疾患研究所に所属。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス、抗菌薬が効きにくくなった耐性菌などに対する、感染症全般のお薬を創製する研究チームを統括。


佐藤 剛章(右)

創薬疾患研究所に所属(取材当時)。感染症やQOL疾患のお薬を探索・研究するための戦略立て、チーム作りやリソースのマネジメントに従事。

INDEX

塩野義製薬について 新型コロナウイルス治療薬の開発プロジェクト スピーディーに開発を進めた背景 印象に残っていること 仕事のやりがい 塩野義製薬の強み

▼製薬業界と塩野義製薬の特徴を広報さんに聞いてみた!

ーーまずは業界や塩野義製薬について教えてください!

渡部:広報担当の渡部です。コーポレートコミュニケーション部に所属し、メディアへの働きかけを通じて社会に当社の価値を伝える仕事をしています。

※渡部 洋一郎さん

塩野義製薬は、大阪に本社を置く、創業147年の老舗の製薬会社です。社章は薬を天秤で量る際に使用した江戸時代の「分銅」に由来していて、「正確」「正直」「信頼」を象徴しています。

塩野義製薬と聞くと、「セデス」や「リンデロン」といった一般用医薬品の製品を知っている人が多いと思いますが、当社は主に医療用医薬品の新薬を開発・製造・販売している会社です。日本の医薬品市場全体は約16.5兆円の規模があり、その約94%は薬局で処方される医療用医薬品です。その中でも、ジェネリック医薬品市場の1割に対し、新薬市場は9割を占めています。

※SHIONOGIのグループブランドマーク

大きな市場ではありますが、新薬の開発には9~16年という長い年月がかかる一方で、医薬品として承認されて実際に患者さんの元に届く化合物は全体の23,000分の1ほどに過ぎません。開発の過程においていくつもの試験を行い、有効性や安全性がしっかりと確認された化合物のみ、厚生労働省の審査・承認を経て新薬として患者さんの元に届けられるのです。

そのような中でも、世界の医療用医薬品の売上上位100品目の国別起源数のランキングを見ると、日本はアメリカ、イギリス、スイス、ドイツ、デンマークに続いて6位にランクインしており、アジアでは唯一の新薬創出国となっています。

※本社ビルの玄関

塩野義製薬は感染症領域に強みを持っています。10年に1つ新薬が生まれればよいとされる中で、過去10年間で6種類の感染症薬を生み出しました。経口の新型コロナウイルス感染症治療薬は、日本企業では唯一当社だけが開発に成功しています。

製薬会社のバリューチェーンには「創る」「造る」「届ける」の3つのフェーズがあります。「創る」は研究・開発、「造る」は製造・品質管理、「届ける」は販売・マーケティング等です。さらに、総務や法務などのサポートを担当する部門もあります。

わたしは元々MR(医薬情報担当者)として「届ける」部門で仕事をしていましたが、同期入社の半分以上は文系学部出身者でした。文系・理系問わず、製薬企業全体では幅広い職種があるので、当社にも興味を持ってもらえたら嬉しいです。

▼新型コロナウイルスの治療薬の開発プロセスを聞いてみた!

ーーここからは新型コロナウイルス治療薬の開発に関わった2人の社員の方にお話を伺います。自己紹介をお願いします。

佐藤:わたしは入社時に塩野義製薬の研究所に配属され、抗菌薬の創薬研究を担当していました。現在は創薬疾患研究所の所長として、薬効薬理や疾患研究をリードするような立場で仕事をしています。

疾患研究では、「患者さんのニーズは何か」「どのようなターゲットに薬が効くのか」を研究しています。感染症や精神・神経疾患を標的疾患として研究を進めています。新型コロナウイルスの治療薬を開発したときは、研究プロジェクトマネジメントの部署に所属して、研究のリーダーをしていました。薬効薬理研究だけではなく、体内動態、安全性研究や分析、開発、市場調査など、さまざまな部署と連携して、それらを束ねてリードする仕事でした。

今日はそのときの苦労や達成感についてもお話できればと思います。

※佐藤 剛章さん

加藤:わたしは薬理研究をしてきた経歴があり、2011年に塩野義製薬に中途入社しました。佐藤が感染症とQOL疾患のリーダーをしている組織の中の、感染症領域の統括を担当しています。感染症領域では、抗ウイルス薬や抗菌薬、また三大感染症のひとつであるマラリアの創薬研究をしており、それらの研究全体を統括しています。

新型コロナウイルスの治療薬開発では、薬のタネを探す部署のリーダーとして、化合物のスクリーニングを束ねる役割を担いました。塩野義製薬の化合物ライブラリーを対象にスクリーニングを行い、薬の候補を見つけ、改良していくことで、コロナ治療薬の開発につなげました。

※加藤 輝久さん

ーー新型コロナウイルス治療薬の開発プロジェクトについて詳しく教えてください。

加藤:通常、新薬開発には長い年月がかかりますが、今回は特別な環境下でのプロジェクトでした。こちらの図が新型コロナウイルスの治療薬である、エンシトレルビルができるまでの流れになります。

※新型コロナウイルス治療薬の構造式模型と論文記事

新型コロナウイルス感染症が拡大する緊急事態宣言下で「新型コロナに効く薬を作るぞ!」という意気込みで研究プログラムがスタートしました。新型コロナに効く薬のタネを探すスクリーニングを行い、化合物が強い活性を持つまで最適化を行いました。2021年の初めにはエンシトレルビルの最初の合成が進んでいました。その後、非臨床試験、臨床試験を経て、2022年11月に緊急承認を取得しました。従来の新薬ができるまでの流れと比べると非常にスピーディーに達成することができました。通常4.5~8.5年かかるプロセスを、約2年弱で行っています。

ーーWHOの報告があってから、すぐに取り掛かることができた理由があれば教えてください。

加藤:元々、わたしと合成化学研究のメンバーが別の業務で協力していたのですが、そこに新型コロナウイルス感染症の報告が入り、「これまでの研究を活かして絶対に薬を作るんだ!」という呼びかけでチームをすぐに動かしました。「我々が世界を救うんだ」という気持ちで取り組み始めました。

ーーースピーディーに開発を進めた背景を教えてください。どのような思いや考えがありましたか?

加藤自社の強みであるウイルス研究の基盤と低分子創薬のノウハウを活かし、リソースを大胆にシフトし、意思決定を素早く行いました。また、北海道大学など外部機関と連携を行いました。これらの強みを活かして、スピーディーに開発を進めることができました。塩野義製薬の感染症に対するノウハウと、新型コロナウイルスの治療薬開発をするという意思決定やリソースシフトがあり、上層部との合意があったためスピーディーに進めることができたと考えています。

※お二人が勤務する塩野義製薬の創薬研究センター(SPRC)

佐藤社内のモチベーションも非常に高かったです。感染状況が日を追うごとに悪化し、この感染症は引かない、どんどん悪化していくのでは?と受け取りました。感染症の研究ノウハウを持っていて下地があるのだから何かできるだろうという自信もありました。とにかくやってみようという形で会社の上層部からも支援をいただきました。

ーー特に大変だったこと、印象に残っていることはありますか?

加藤:コロナ禍ではかなり制限があったので、研究の材料を手に入れることですら苦労しました。いろいろな試薬や資材を集める必要があり、他の会社さんも関わってくるのですが、物流が止まってしまって物を送るだけでも大変でした。ただ、新型コロナの薬を作っているという報道が流れるたびに、「協力するよ」と声をかけていただいたことがとてもありがたく、力添えになりました。

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▼研究職の特徴と塩野義製薬の魅力を聞いてみた!

ーー研究職について、仕事のやりがいを教えてください。 

佐藤:研究職は0から1を生み出す仕事です。何もないところからアイデア一つで新しいものを生み出してそれを育てていく業務です。多くの場合、研究成果がすぐに皆さんの手元に届くわけではありませんが、10年、20年という長いスパンでエビデンスを積み上げて物を育てていける、そういった機会を持てることがやりがいになっています。

特に、新型コロナウイルスの治療薬の開発を通じて、多くの人が成功体験を得られたことは大きかったです。「じゃあ、こんな薬も作ろう!」という新しいアイデアが次々と生まれてきて、面白さを感じます。

※SPRCの内部

加藤:わたしは研究職に就いて20年弱になります。大学を卒業してからずっとこの仕事をしていますが、誰も見たことがない結果やデータを世界で最初に見ることができる職業なので新しいことを発見する喜びや楽しさを感じながら仕事をしています。

今はチームを率いる立場になり、みんなで取り組んでいくことの喜びも感じています。結果的に社会を救うような研究に貢献できることに、大きなやりがいを感じています。

ーー仕事をする上で、どのような人と関わるのでしょうか?

佐藤:研究職というと、一人で部屋にこもって試験管を振っているイメージがあるかもしれませんが、実際は違います。一人で薬を作るのは不可能なので、さまざまな人と関わります。社内では、特許のチーム、臨床開発のチーム、薬事申請のチームなど様々なメンバーと連携をとっています。また、大学の先生方や海外の研究者との共同研究もあるので、皆さんが想像する以上に社内外の多くの人とコミュニケーションを取りながら進める仕事です。

ーー個人で動く場合とチームで動く場合の割合はどのくらいでしょうか?

加藤研究員の場合、1日の半分以上は個人作業になります。実験室での作業やデータ解析など、一人で進める業務が多いです。統括の立場になると、メンバーとの議論や会議の時間が増えます。管理職のわたしの場合、7割が会議や議論で、残り3割が自分の業務といった感じです。

佐藤:わたしも同じ感覚です。研究員は調べ物をする時間も重要なので、その時間も含めると個人作業の割合は高いですが、チームで動く部分も多く、バランスを取りながら進めています。

ーー塩野義製薬の強みは何だと思いますか?

加藤:塩野義製薬の強みは、感染症に関する知識やノウハウが豊富な点です。わたしは中途採用で入社しましたが、なぜ塩野義製薬を選んだのか?と聞かれることがあります。答えはシンプルで、薬を世の中に届けることができる会社だからです。転職前から、塩野義製薬は自社で医薬品を開発し、実際に世の中に送り出せる力を持っていました。そこに魅力を感じています。

佐藤:「物を出せる力」の源泉になっているのは、塩野義製薬の文化だと思います。ものづくりに対するこだわりが強く、とにかく諦めが悪いです。「やめなさい」と言われても続ける人が多いです。そのような情熱を持った文化が塩野義製薬の大きな強みだと思います。

※社内で定期開催される、研究メンバーが集うポスターセッション

取材:櫻井 奏音(ガクラボメンバー
執筆:亀谷 凪沙(ガクラボメンバー
編集:学生の窓口編集部
取材協力:塩野義製薬

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