デジタル金融サービス「Olive」や中小法人向けの「Trunk」でイケイケのSMBCグループですが、新たにソフトバンク・PayPayとの提携を発表して注目を集めています。各社の狙いはどんなものなのでしょうか。
PayPayと三井住友カードの提携はどちらにメリット?
今回の提携は、正式には三井住友カード・ソフトバンク・PayPayの3社による「デジタル分野における包括的な業務提携」ですが、発表会にはSMBCグループの中島達社長も登壇し、グループを挙げた提携であることを示していました。
PayPayと三井住友カードのVpass、Oliveの連携では次のサービスが提供されます。
- PayPayアプリでの三井住友カードの紐付け優遇
- OliveアプリでのPayPay残高確認、三井住友銀行口座とPayPay残高間のチャージ・出金がOliveのアプリで可能に
- PayPay残高から三井住友銀行口座への出金手数料が無料に。
- フレキシブルペイの支払いモードにPayPay残高による支払い方法を追加。Olive を介して、世界中のVisa加盟店でPayPay残高によるお支払いが可能に。
- 「PayPayポイント」と「Vポイント」の相互交換を検討
他にも提携事項はありますが、PayPayとの提携内容はこの5種類です。
見ていると気付くのですが、実のところ、PayPay側のメリットはあまり多くはありません。提携の発表会で壇上に上がったPayPay中山一郎社長の説明が短時間に終わり、ソフトバンクの宮川潤一社長が「短いね」と思わず言ってしまうほどでした。
QRコード決済において、支払い元として設定したクレジットカードには手数料が発生するため、決済時業者の悩みどころになっています。その手数料を各加盟店は支払っているわけですが、手数料がグループ内に還流する自社クレジットカードを優遇する例が増えています。
PayPayも同様の方針を示しており、今夏にはPayPayカード優遇を明らかにしていましたが、三井住友カードも同様に優遇するという提携です。この手数料の負担を誰がするのかは両社協議の上ということでしたが、提携前にPayPayとしては負担回避を目指していたわけですから、その負担は避けたいところでしょう。
PayPay残高から三井住友銀行への出金手数料の無料化、フレキシブルペイの支払いモードにおけるPayPay残高の支払い方法の追加といった項目では、PayPayカードやPayPay銀行との自社競合が発生することも予想され、PayPay全体としてメリットがどこまであるかは難しいところです。PayPayポイントとVポイントの相互交換についても、PayPay経済圏としてはメリットが薄いと言えます。
ただし、ユーザーにとってはメリットが多いという点は見逃せません。このあたり、PayPayにとっても難しい舵取りが必要になりそうです。
三井住友カードとソフトバンクにとっての提携の価値は
逆に、三井住友カードにとってはメリットが大きいのが今回の提携です。いずれの項目も、三井住友カード利用の拡大に繋がる施策で、SMBCグループにとってはメリットの大きいものといえます。
とはいえ、「ソフトバンク」として考えると、これが逆転します。今回の提携では、Oliveが推進する非金融分野との連携におけるヘルスケアサービスとして、ソフトバンクの子会社であるヘルスケアテクノロジーズとともにヘルスケアポータルを提供。ソフトバンク子会社のリードインクスと連携して、ニーズに合った保険商品を簡単に申し込めるように、三井住友カードの保険ポータルのリニューアル・商品ラインナップの拡充を行います。こうしたソフトバンクのヘルスケア関連のサービスは三井住友カード法人会員向けにも提供されます。
三井住友カードの決済データとソフトバンクやそのグループ会社が保有する人流統計データ、その他の外部データを組み合わせた顧客分析ツールの検討も進めます。こうした顧客分析ツールを三井住友カードの加盟店に提供してマーケティング、送客などにつなげるという狙いです。
生成AIを活用したビジネス創出では、まずは三井住友カードのコンタクトセンターにソフトバンクの生成AI技術を導入します。ソフトバンク子会社のGen-AXが開発する「音声生成AIを活用した自律思考型AIサービス」とされていますが、三井住友カードに寄せられる年間600万件に及ぶ音声電話の問い合わせ、その半数以上を生成AIで対応する方針です。
三井住友カード大西幸彦社長は、「AI活用の本丸はAIを活用した未来型サービスの提供。Oliveの進化としてAI-Oliveを検討している」と話しており、生成AIの活用をさらに進めていく考えで、さらにソフトバンクとの提携が重要になってくる可能性があります。
こうして見ると、今回の提携は三井住友カードとソフトバンクにメリットが多く、両社が主導したものと考えられます。SMBCグループの中島社長がわざわざ参加している点もそれを表していると言えるでしょう。PayPay側にとって一方的にデメリットばかりとまでは言いませんが、上場を前に難しいボールが投げられたともみられます。
ソフトバンクの宮川社長は、「PayPayの上場は、個人的な話からするとまだ本当は少し早いと思っていた」と話していて、PayPay側の強く求めた上場だったことを示唆しています。そうした背景も含めて、3社の今後の動きに注目です。