
安いコメを求め消費者は必死 コメ農家の奉仕経営は限界に
「10件くらいスーパーを周ってその中で一番安いものを探して購入しています」─。大阪府在住の4人家族世帯のAさんはコメ確保の苦労を吐露。
コメ価格の高騰が続き実質賃金はマイナスの中で、消費者は少しでも安価なものをと走り回る。昨年から続いているコメ価格高騰。総務省「消費者物価指数」によると、今年2月時点で前年同月比80.9%と約2倍まで跳ね上がっている。これを落ち着かせようと、国はいよいよ備蓄米放出を決断したが、3回の放出後もなかなか米価は下がらない(5月4日時点で5キロ4214円)。
小売店では、米国産やタイ産のコメを仕入れ、安価に販売する動きも出てきており、即完売状態。美味しいのは国産米だとわかっていても、物価高で家計が圧迫されている世帯に選択の余地はない。一般家庭が備蓄しているコメの窃盗事件が全国各地で発生している状況は異常だ。
一方で、生産者はこう話す。
「もともとコメ生産だけでは生活が成り立たず、年金を投じてまで作ってきたが、物価高騰で肥料やエネルギーコストも上がる中で経営はもう限界です」と新潟県の小規模米農家。身銭を切ってでも生産を続けている理由は、「コメ作りが好きで自分がつくったお米を美味しいと喜んでもらえるのが嬉しいから」と話す。消費者が今まで安価で美味しいお米を享受できる状態は、そうした生産者がいたからこそ成立していた。
令和5年の農林水産統計によれば、全農業経営体における平均の農業粗利収入は1247.9万円、うち農業経費は1133.7万円で、農業所得として114.2万円であった。農家らは3月30日、全国14都道府県でトラクターのデモ行進を行い所得補償を訴える「令和の百姓一揆」を実行。都内に全国各地から3000名が集まった。
コメ価格高騰の利益は誰に?
新潟県の大規模生産者で元JA役員のAさんは、「JAの手数料は3.5%と決して儲かる金額でもない。他に倉庫保管料、消費地までの運賃、検査、手数料等60キロで2000円程度の費用が差し引かれているので、われわれ農家がぼろ儲けしているわけでもない。流通後のことはわからないが、卸や小売店の手数料が結構高いのでは…」と話し、「われわれは現実問題、JAからは種まき前から昨年より高い買取価格を提示され、やっとコメを作って生活ができるようになる。長年できていなかった機械投資もできる」(同)とした。農家にとっては、コメ価格の高止まりは朗報だ。
事実、コメ卸大手企業の決算状況は過去最高益。木徳神糧の25年第1四半期の売上高は368億円(前年同期比23.1%増)、営業利益18.5億円(同347.7%増)、ヤマタネの25年3月期売上高は809億円(同25.4%増)、営業利益37.8億円(同8.5%増)であった。
株式会社である以上、利益を追求するのは当然であり卸会社を責めることはできないが、売価4500円のコメのうち、1500円が農家の収入で、あとは流通小売りに流れているという問題を指摘する声もある。
日本人の主食であるコメはライフラインであり、国の食糧安全保障においても重要な位置づけであるが、実際コメをつくる農家の低収入問題は長年の課題。減反を行い、補助金ありきの農政に限界が来たのだといえないか。
皺寄せは日本酒業界にも及ぶ。金沢で酒造りを行う酒蔵担当者は「酒米も高騰している。農家は酒米から高く売れる食用のコメに転作してしまって、酒米調達が厳しくなっている。田んぼまで直接大手外食企業が来て、JAの2~3倍の価格で買い付けている」と話す。
農林水産省事務次官の渡邊毅氏も、「調査を行い、卸・小売り企業が生産者と直接取引を行い、在庫を19万㌧抱えていることがわかった。新米との切り替え時期に、昨年同様また米不足になるのではと消費者も含めた皆さんの不安から、それぞれが在庫を抱えて流通量が減っているとみている。備蓄米を3回放出し集荷業者が落札したが、そこで流通が止まっていたと判明し、GW中に流通を増やすようお願いをした。昨年の販売数量を見ると、新米が出始める9月に販売量は落ちているので先食いはされていなく、前年より18万トン作付けも多い。今年の新米が出る10月半ば頃には価格は例年並みに落ち着くはずだ」と今後の見通しを語った。
国の制度設計はどうするべきか
「食糧自給率のことも含めて考えれば、現在のコメ農家に補助金で大豆などへの転作を促すという実質的な減反政策をやめ、コメの生産量を増やし海外輸出を増やすべきだ」とキヤノングローバル戦略研究所の研究主幹・山下一仁氏は解決策を提言する。コメの生産が圧倒的に足りていないという主張である。
元農政関係者は、「食べるコメの生産を増やしすぎると価格が暴落してしまうため、これまで家畜に食べさせる小麦、麦、大豆を代わりにつくってもらい、水田を維持してきたということがある。今後可能性があるのは輸出だ」と話し、山下氏と似た解決策を提示している。
「カロリーベースの食糧自給率をみると、コメは自給率100%に達しているが、そのほかの小麦や大豆、果実は約60年前と比較すると大幅に減っている。農水省としては食糧安全保障を考えたときにこの部分を増やした方が良いとの判断で現在までやってきている」と農水次官の渡邊氏。
今回のコメ価格高騰は生産が問題なのではなく、流通にポイントがありそうだ。消費者がこの事実をまず知り、その上でどう行動をとるのかが、今後のコメ価格を左右する。
今年の出荷が始まる秋には抜本的な解決策が示され、長期的視点をもって、生産者、流通、消費者が納得するコメ価格が実現できる新体制を期待したい。