4輪の自動車の分野では電気自動車(EV)の普及が進んでいるが、2輪においても4輪と同様に内燃機関搭載車から電動化への置き換えが進むと見られており、徐々に電動2輪の市場が立ち上がりつつある。

Infineonは4輪の自動車向けの半導体でトップシェアを誇るが、立ち上がりつつある電動2輪市場においてもトップシェアの獲得を目指している。電動オートバイ、電動スクーター、電動自転車などが「小型電気自動車(Light Electric Vehicle:LEV)」と称されるが、同社のLEV向け半導体の展開について、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社オートモーティブ事業本部のンー ボブ氏に話を聞いた。

  • ンーボブ氏の写真

    インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社 オートモーティブ事業本部 ンー ボブ氏

既存の2輪車の電動化で電動2輪市場が拡大

電動2輪市場は今後5~10年で大きく成長すると見込まれている。アジアや南米において既に内燃機関の2輪の市場があるが、これらの地域では大気汚染や交通渋滞が問題となっており、徐々に電動化が進むことが期待されている。たとえば、世界最大の2輪市場であるインドは、全2輪市場における電動2輪の割合は2022年に1.4%だったが、2030年には30%まで拡大すると見られている。全世界の2輪市場は2024年の4,400万台から2029年には5,500万台まで年平均5%成長するという。そして電動化によって、2輪車に搭載される半導体も増加するため、2輪向けの半導体市場は2024年の6億9,100万ドルから2029年には11億9,100万ドルまで、年平均12%成長すると予想されている。

電動2輪が普及するため半導体デバイスに求められる要件としては、まず電動モーターの効率化がある。電動2輪ではEVと同様にモーターとインバーターが非常に重要な基幹部品であり、走行距離や加速などの性能を決める。このため、モーターとインバーターの高効率化が求められる。

次に、高度なバッテリーの管理システムも重要となる。たとえば、バッテリーの発火事故を防ぐためには、バッテリーの状態や容量を高精度に検知する必要がある。また、スマート化が進むことで、信頼性の高い通信機能も必要だ。さらにハードウエア、ソフトウエアの両面でセキュリティーも重要となる。

なお、電動2輪は電動4輪とバッテリーの電圧が異なり、電動4輪が400Vないしは800Vであるのに対し、電動2輪は48Vあるいは96Vであるため低耐圧への対応が求められる。

Infineonでは、こうした要求に応えて電動2輪向けに幅広い製品を揃え、トータルソリューションを提供している。

  • 図版

まずは駆動系のトラクションインバーターで、マイコンやパワースイッチ、制御用のゲートドライバー、センシング用の電流センサー、モーターの位置検出センサーがある。バッテリー制御システムでは、バッテリー検知用のICやマイコン、プロテクションMOSFET、バッテリーの真贋判定用のセキュリティーチップなどがある。バッテリーの充電では、AC/DCコンバージョン用にマイコンやパワーMOSFETなどを提供している。

セーフティ関係やボディー関係のセンサーでは、タイヤの圧力センサーやスタンドのセンサーなどがあり、上位機種でレーダーも提供している。さらにハンドルバー周りのディスプレーソリューションやスロットルグリップのセンサーも備えている。

既にインドを拠点とするグローバルリーディングのOEMがInfineonのMOSFET「OptiMOS」やマイコン「TRAVEO」、NORフラッシュメモリーなどを採用し、インド向けの電動スクーターを販売している。Infineon製品が採用された理由としては、品質・品証サポート、供給体制、技術支援が評価された点にある。また、OEMやTier 1、業界団体との良好な関係に加え、製品自体の堅牢性やこれまでの実績も採用の決め手になったという。

このOEMが初めてインド向けに発表したスクーターであったため、同社製品への採用はInfineonのビジネスにとっても今後の大きな足掛かりとなるだろう。

用途に合わせて提供されるマイコン

具体的な製品について取り上げていくと、まずは主にトラクションコンバータ―に用いられるマイコンについて、パワーウインドウやステアリングなどのモーターコントローラー向けの「MOTIX」、民生品・産業機器用の「XMC」、車載品用の「TRAVEO」および「AURIX」と、低機能から高機能まで幅広く展開している。

電動2輪は公道で走行するため、搭載する半導体デバイスには車載グレードの性能・品質が求められる。Infineonでは特に自動車用の機能安全レベルASIL-Bに対応する「TRAVEO T2G」と最高レベルASIL-Dに対応する「AURIX TC3x」を推奨している。

  • 図版

TRAVEOはArmのCortexコアを用いており、シングルコアやデュアルコアでさまざまな組み合わせで展開している。低消費電力で、ソフトウエアを無線で更新するSOTAにも準拠している。電動2輪では、インバーターやバッテリー管理システム、メーター周りのディスプレー、ボディー制御、通信機能向けに採用されている。メーターを表示するディスプレーについては、従来はSoCを用いるが、機能がオーバースペックになっているため、ここにTRAVEOを用いることで最適な機能を低コストで実現できる。

次にMOSFETは、インバーターやパワーデバイスに用いられており、Infineonは、電動2輪向けの低耐圧・中耐圧のMOSFETとして「OptiMOS」シリーズを展開している。MOSFETはインバーターにおいて、マイコンよりも使用個数が多く、評価ボードでも裏面はMOSFETで埋め尽くされている。そして、パワーディスクリートとモジュール、ディスクリートのパワーMOSFET市場において、Infineonは2位の2倍以上のシェアでトップシェアを獲得している実績がある。

最新のOptiMOS製品は、第6世代の「OptiMOS 6」と第7世代の「OptiMOS 7」を展開しており、それぞれ対応する電圧が異なり、バッテリー電圧の上昇に対応している。

  • 図版

また、半導体チップのパッケージング技術も重要になる。チップのパッケージには、電動2輪が道路を走る際の振動への対応や優れた放熱処理が求められる。現在Infineonが提供しているパッケージとしては、高耐圧用途に最適化されたTO-Leadlessの「TOLL」が主流の製品がある。さらに堅牢性が要求される用途としては、ガルウイング端子の「TOLG」があり、くわえて、革新的なパッケージとして放熱特性を向上した「TOLT」を提供している。従来は基板経由で放熱するため、基板にある程度のスペースが必要だったが、TOLTはヒートシンクをチップの上に被せて放熱するため、基板スペースを縮小し、システムのサイズを全体的に小さくできるメリットがある。Infineonとしても、このTOLTを積極的に展開していく方針だ。TOLL、TOLG、TOLTのパッケージを用いた3.8mΩの150V対応のOptiMOS 6は大手OEMがファーストチョイスとして選定しているという。

  • 図版

次世代のGaNで高効率化と小型化を目指す

さらに次世代の製品としてInfineonが開発を進めているのが、GaN(窒化ガリウム)を用いたパワーデバイス「CoolGaN」だ。GaNは既にモバイル機器の急速充電器に用いられているが、電動2輪に用いると、ドライブユニットやシステムを小型化できるというメリットがある。

GaNの特性を活かすと高速スイッチングが可能になるため、電気を貯める電解コンデンサを小さくできる。GaNを用いた評価ボードをSiを用いた評価ボードと比較すると、GaNを用いたシステムのサイズを少なくとも30%小型・軽量化ができ、システムのコスト削減が可能だ。

  • 図版

GaNのデバイスは実用化までに3~5年を要すると見られるが、InfineonはOEMやTier 1との共同開発を進めており、2025年第3四半期にはCoolGaNのサンプル出荷を開始する予定だという。

また、電動化でセンサーも2輪に多く搭載されるようになる。Infineonは「XENSIV」というブランドで、自動車用途から産業機器向け、民生機器向けまで幅広い分野に磁気センサー、MEMSセンサー、RFセンサーを展開している。

たとえば電動2輪では、ABSに用いるホィールスピードセンサー、サイドスタンドセンサー、レーダーセンサー、バッテリー管理用の電流センサーや圧力センサー、位置検知用センサーなど、非常に多くのセンサーが搭載され、2輪のスマート化が進んでいる。

  • 図版

Infineonでは、以上の電動2輪に必要な幅広い製品を拡充・強化することで電動2輪の普及を促進し、市場の拡大とともにさらなる成長を目指している。

  • ンーボブ氏の写真

関連リンク

[PR]提供:インフィニオン テクノロジーズ ジャパン