日本最大級の中堅・中小企業向け総合経営コンサルティンググループである株式会社船井総研ホールディングス。Googleの生成AIサービス、Google Workspace with Geminiを国内グループ全社員約1500名に提供し利用率はすでに97%を達成。「泥臭く時間と手をかけて仕事をする」から「生成AIを用いて顧客への提供価値を高める」へと企業文化の変容を急速に進めている。
日本語対応がきっかけでGoogle Workspace with Geminiを導入
船井総研グループは、日本最大級の中堅・中小企業向け総合経営コンサルティンググループで、経営コンサルティング事業、ロジスティクス事業、デジタルソリューション事業の3領域9社で、約1万社の顧客に対してコンサルティングを行っている。
同グループでは、昨年11月からGoogleの生成AIサービス、Google Workspace with Geminiを国内グループ全社員約1500名に提供した。目的は、「泥臭く時間と手をかけて仕事をする」から「生成AIを用いて顧客への提供価値を高める」へ、企業文化の変容を行うためだという。
その結果、導入前には生成AIの利用率は30%程度だったが、現在では97%の社員がGeminiを仕事に利用している。そこで、どのようにこのような高い利用率を実現したのか、生成AIの利用促進業務を担っている株式会社船井総研ホールディングス コーポレートストラテジー部 シニアマネージャー 石田朝希氏に聞いた。
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株式会社船井総研ホールディングス コーポレートストラテジー部 シニアマネージャー 石田朝希氏
船井総研グループでは2023年の生成AIブームが起こった際、生成AIのセキュアな活用のため他社の生成AIをベースにした「FUN-AIセンパイ」というアプリを自社で開発し、社員に提供した。
FUN-AIセンパイでは、社内のマニュアルを読み込ませて回答させる「FUN-AIコンシェルジュ」や、プロンプトと出力されたドキュメントを部署内に共有できる「FUN-AIシェア」のほか、文章をきれいに書き直してくれる「FUN-AIリライト」などのアプリを提供し、常時20~30%の社員が業務に使っていたという。ただ、より積極的に生成AIを活用するため、船井総研グループで活用するグループウェアGoogle Workspaceと相性のいいアドオンであった「Gemini for Google Workspace」(当時)の導入が検討されていた。そして、機能が拡充され、日本語対応した昨年11月、同アドオンを船井総研グループ全社員に提供した。
「Google Workspaceのさまざまなドキュメントを読み込むAIが望まれていました。そんな中、2024年11月にGoogleさんからGemini for Google Workspace(当時)が日本語対応するという連絡をいただいて、そのタイミングで全社導入しようと決断しました」(石田氏)
グループでGoogle Workspace with Geminiを使うメリットは3つ
石田氏によれば、グループでGoogle Workspace with Geminiを使うメリットは3つあるという。1つ目は、Google Workspaceとの親和性。
「Google Workspaceのデータを利用できる点や、コンサルティングという業種の特性上、決算書や顧客情報などの機密情報を業務で使用することが見込まれていました。そのため、より安全な環境が必要でしたが、GeminiではGoogle Workspaceと同じセキュアな環境が実現されていました」(石田氏)
2つ目が他の汎用型生成AIに比べ、1人当たりのユーザーカウントコストが安価であった点。
そして3つ目は、クライアント企業属性との相性だという。
「お客様がGoogleを使っているケースが多いため、GoogleのAIであるGeminiも中堅・中小企業のクライアントに利用浸透させていくようなコンサルティング商品になっていくだろうということを見越していました」と石田氏。
石田氏にGeminiの良さを聞くと、次のように語った。
「難しいことを書かなくても聞いたら簡単に答えてくれるという体験ができるところがGeminiの良いところだと思っています。そういう意味で、Google Workspace with Geminiは一番ハードルの低い初心者向けAIだと思っています。これを使わないと画像生成や動画生成、コード生成などの用途特化型生成AIも使っていけないと思います」(石田氏)
利用拡大に向けた施策を行い、97%という高い利用率を達成
船井総研グループでは、Gemini for Google Workspace(当時)でサイドパネルなどが日本語対応していない2024年8月中旬に試験導入していた。生成AIに興味がありそうな50名ほどをピックアップして、ユースケースを貯めていったという。そして2024年11月の全社導入の際には、全社のカンファレンスで導入を告知し、その後、部署別に説明会を開催した。
「先行利用部署から集まった、船井総研グループの社員らしいリアルな使い方を紹介し、初めて生成AIを利用する社員がAIの用途に困らないような説明を心掛けました」(石田氏)
現在、船井総研グループでは、Google Workspace with Geminiの利用率は97%だという。このように高い利用率を達成できた理由について石田氏は、「Google Workspaceと連携していて使いやすいという理由のほかに、部署別説明会を開催したことも背景にあります。それ以外にも、年初に「生成AIサミット」を開催し、高度に生成AIを業務に融合させている社員4名に対談してもらう仕掛けも実施しました。それによって、うちの部署であればこういう使い方もできるのではないかと発想し、導入初期では想像もつかなかったような使い方をしてくる部署が出てきました。また、次長・部長クラスがGeminiの活用にメリットを感じて情報発信を開始した点も浸透促進に大きく貢献し、それで利用率が97%を超えてくるようになってきたと考えています」と説明した。
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年初に開催された社員向けのイベント「AIサミット」
その他にも、先進的な利用に意欲的なコンサルタントやバックオフィスの社員をグループ全社から40名選抜し、ワークショップも開催。参加メンバーがワークショップで学んだ内容を各部署に横展開することで、利用率が向上したという。
プロンプトにこだわらず、とにかく使ってみてもらう
一般的に生成AIにおいては、プロンプトの書き方が結果の精度に影響するといわれるが、石田氏は、プロンプトの書き方の指導には注力しなかったという。
「いわゆるプロンプトエンジニアリングという指導は、一旦脇に置くようにしたという感じです。『役割を決めて、ゴールは何で、指示することは何かを書きましょう。書き方はこうです』と号令をかけた瞬間に、AIに苦手意識を持ち、使わなくなる人が出てくると考えていました。どんなに簡単なプロンプトでも、生成AIからは何かしらの回答が得られる。生成AIビギナー社員が一番目のスモールステップを上れるようにすることにフォーカスしていました。もちろん、回答が得られないため、自分でプロンプトを学習していく人もいると思いますが、会社として最初の2カ月はプロンプトに関する教科書的な研修は一切してきませんでした。小難しいことをしなくても、ある程度の回答が得られる体験をしてほしいと思っていました」(石田氏)
部署別勉強会の開催と問い合わせ窓口の設置で利用者のスキルアップを支援
一方で、どうすれば自分が得たい回答を得られるのかというスキルアップの取り組みも行った。1つはTipsを共有するための部署別勉強会の開催。もう1つは、問い合わせ窓口の設置だ。
「部署別勉強会では、GeminiやNotebookLMを使った所属部署業務ならではのユースケースやAI活用ノウハウを、業務内容が近しい社員同士でシェアしたり、画期的な使い方を部署内・隣接部署間で発掘したり、さらなる応用を模索する取り組みも行っています。Geminiを一番使った人に使い方を発表してもらったり、ワークショップに参加した人が部署内に同じ内容を展開していたりしています」(石田氏)
問い合わせ窓口としては、社内のオンライン問い合わせ窓口に「Geminiについて」という問い合わせ先を設けて、「Geminiにこんなプロンプトを打ったが回答がうまく出ない。本当はこういうことをしたいと思っているが、Geminiにどのような指示を出すべきか?」というような相談を集約し、意図した結果が得られるように管理部門側で検証して、社員にフィードバックをした。
さらに、社員間で日報を共有する仕組みもスキルアップにつながっているという。
船井総研グループでは、社員が気づきやノウハウを全社員にメールで共有する形式の日報を提出する。形式は自由で、グループ全社員が自身のメール受信箱でいつでも閲覧できる仕組みで、毎日500~600本のメールが投稿されているという。
「もともと創業者の船井幸雄が、与え好きで企業文化として根づかせていた点もありますし、日報の提出状況が評価にも影響する場合もあり、社員全員がコンサルティングに使える情報を他部署・グループ内事業会社の社員に日常的にシェアしています。日報メールの内容は、業種業界の専門コンサルタントによる業界話題への分析もあれば、部署の業績を高めるためのマネジメントノウハウなど幅広い話題が日々登場しています。投稿について、個別に質問を送ることもできます」(石田氏)
この日報メールの中には、Geminiに関する投稿もあるという。
現場のことが分かっている人が利用を推進するべき
今後、Geminiを導入する企業へのアドバイスを聞いたところ、石田氏は2つの点をあげた。
1つはサイレントリリースをしないこと。導入はもちろん、性能アップや機能向上などGeminiのアップデートの内容は積極的に社員に伝えていく必要があるという。
「私たちが導入したときは積極的にアドオンを購入する必要がありましたが、現在、GeminiはGoogle Workspaceのアカウントに付帯して誰でも使えます。そうすると、気づく人だけがGeminiを使い、気づかない人は一切利用が進まないというリテラシー格差が顕著に表出しうると思っています。知らない間にGeminiが導入されたり、新機能が搭載されたりしている状況だと、十分に生成AIの力を業務に活かしきれないはずです。だから、『こんな機能が追加されました、使いましょう』と、全社員に声を掛けることが大事だと思っています」(石田氏)
もう1つは、現場のことが分かっている人が利用を推進すべきだという。
「コーポレートIT部門で日頃システムを管理している私の部署のメンバーに、生成AIが登場したので全社員が使えるユースケースを作ってみるようにお願いするとします。ところが当たり前ですが、Geminiを使えるように管理者設定をすることはできても、業務で使うリアルなユースケースを彼らから出すことは困難です。生成AIを利用してほしいと願う対象者について、その業務理解が深く、できればその業務を実際にしたというバックグラウンドを持った社員が、生成AIやデジタル・IT・DXを理解して推進することにしないと、どの会社もうまくいかないと思っています」(石田氏)
そして石田氏は今後の取り組みについて、企画書や提案書などに反映できる仕組みを作りたいと述べた。
「グループには、業界や経営テーマに精通したコンサルタントが蓄積してきた膨大な講演テキストや音源がストックされています。また、日報メールという文化によって、本来有償価値があるような情報が当たり前に飛び交い、誰でも手にすることができます。そういったいわば“有料級の”情報を、整理整頓の手間をかけずに、誰でも簡単にアクセスして引き出し、企画書や提案書、講演資料などに反映できる仕組みを作りたいと考えています」(石田氏)
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